服部之総の明治維新観

服部之総明治維新史』(青木文庫)
(1928年3〜4月『マルクス主義講座』)

 明治維新は決して単なるブルジョア革命ではない。ブルジョア革命を言う限りにおいて、それはようやく明治四年に至って上から着手せられ、六年ー十四年に下から継続せられて出発したが、今日に到るも未だ決して完了されてはいない。世に「王政復古」と呼ばれている政治的変革過程は、和親条約締結前後から政治化し始めて、七月の版籍奉還を以て「完了」とするが、これは本質上何等のブルジョア革命でもないのである。それは幕府三百年の純粋封建国家体制から封建主義の最後の形態たる絶対王政への転換であり、この転換をもたらした諸矛盾こそ幕府三百年の胎内に求められねばならないが、しかもその急速な発展と転化との秘密は、やはり安政開港以後の全封建的生産関係の分解過程に在る。
 かくて我々は大体において、明治四年以前の絶対王政への政変を以て、開港以前鎖国封建日本の胎内に孕まれた諸矛盾の発展により準備せられ、開港以後経済的分解過程によって次々と否定された政治過程として見るならば、四年以後の上下からのブルジョア革命を以て、開港によって準備され絶対王政によって余儀なく助成されたところの政治過程として見ることが出来るであろう。広い意味の明治維新とは、この二個の過程の二重写しであり、そこに維新史研究のすべての困難さは起因する。