バンリユーとサバービア

今橋映子編『リーディングズ 都市と郊外―比較文化論への通路』より

  • バンリユー(la banlieue)

フランス語で「郊外」。「バン=領主の布告」が及ぶ「リユー=里(約四キロ)」が語源。パリでは、ブルジョワは城壁内に居住することを好み、労働者は壁の外に追い出された。現在では、国外からの移民難民が住みつく危険地帯というニュアンスも帯びる。

  • サバービア(suburbia)

英語で「郊外」。「都市の近くのところ」を意味するラテン語suburbiumが語源。ロンドンでは、大気汚染、治安悪化の都市を避け郊外に居住することを好んだ。その理念はアメリカに輸入され、世俗化し労働者階級にまで共有された。現在では、退屈し切って暮らす中流階級の憂鬱というニュアンスを帯びる。

収録論文の一つである若林幹夫の「都市への/からの視線」は、基本的にサバービアから郊外をみているが、日本における郊外化について「徳川期以前の日本には、今日的な意味での郊外は存在しなかった。日本に郊外が成立していくのは、明治維新による幕藩体制の瓦解とともに、近世都市の社会的・空間的編成へと組み替えられていった、明治期後半のことである。」という。しかし、そこでの風景は、「場末の東京市」であり、郊外の根幹をなす「豊かさの」記号を欠いていて、その記号を帯びるにはやや遅れて大正期に入ってからだという。そこに一瞬バンリユーが顔を覗かせている。バンリユーは、そこで消滅してしまったのではなく、サバービアと二重になって現在にまで至っているのだろう。ザバービアの仮面を被っているバンリユーがあるときに露呈してしまう。現在こそがその最もな例であろう。