農民日記から見る時勢の認識

新井勝紘・松本三喜夫編『多摩と甲州道中 (街道の日本史)』によると、上椚田村(八王子市)の千人同心の家の「石川日記」(1720(享保5)年から1912(明治45)年まで)、小野路村(町田市)名主で同寄場組合惣代である小島政則の「小島日記」(1836(天保7)年開始)、柴崎村(立川市)名主の鈴木平九郎の「公私日記」の各日記から、「その後の天保改革の失敗を見て、多摩の名主たちは、商業資本の抑圧と自然経済復帰では財政立直しは無理だと悟る」ような認識が読み取れるようである。
小島政則は、大河ドラマ新選組!』にも登場した小島鹿之助の父親であり、その後名主を継いだ鹿之助においては、さらにその認識が強まっていたことが予想される。そのように時勢を的確に認識していたと思われる農民たちが多摩に存在すること、また当の小島鹿之助が、近藤勇新選組の最大の後援者の一人であったことは、新選組を単に時流に取り残された多摩農村の封建制の残滓と見ることを困難にする理由の一つであろう。