芸術と就職

大学進学を芸術学部に選択したのは就職に不利だとされていたからだ。自分にとって「就職する」ということは「死ぬ」にも等しいことだった。ハンス・アビング「金と芸術」に次のようにある。
「七〇年代には、私の仲間の多くの学生が、ブルジョア社会を非難し、「普通」の仕事には就かないと主張した。彼らは自分たちがあまりにも「変わって」いるか、社会が「異常で」「病んで」いるかのどちらかであろうと感じていた。いずれにしろ、芸術は彼らにとって聖域だった。このような極端な見方は今日では時代遅れだが、多くのアーティストがいまもなお、芸術は退屈な日常への(ロマンティックな)対案を提供し、しばしば平凡な仕事に代わる何かを提供してくれると信じている」。
今では「死ぬ」にも等しい「普通」の仕事に就き、退屈な日常を生きている。それを肯定することはできないが、芸術を「普通」の仕事のロマンティックな対案とはもはや信じてはいない。といってもニヒリズムに陥ることもない。ただ芸術を仕事とは別に単に芸術としては信じている。