「やりがい」による使い捨て

続いてハンス・アビングは、人は合理的に振る舞うという経済学者の予想に反して芸術に身を投じる人が絶えない理由を次のようにいう。
「新規参入者の期待が極端に高く、それにはある種の救済を求める地点にまで達していることが挙げられる。結果的に、これらの新参者たちが失望したとき、彼らはその失望を隠す。そして次の世代もまた誤った情報が与えられる。この点に関しては移民が置かれた状況と類似している」。
こういった状況は「やりたいこと」を誘導するような分野の仕事にもいえる。前職の会社は、理念が崇高だが、給料が安く、労働時間が長いなど職場環境は劣悪だった。しかし、奉仕型志向の人間が理念の実現を求めてそれなりに入ってくるので、辞めていく人間が絶えなくとも経営努力をせずに成立してしまうようだった。金儲けを目的にする普通の会社では考えられないことだ。給料が安く、長時間労働の会社なんて誰が好んで入るのだろうか? 「やりがい」で、多くの志の高い若者を使い捨てにしてはならない。